「強い欧州」復活へ賭け EU、温暖化ガス50年にゼロ

グレタ・トゥンベリ

欧州連合EU)が2050年に域内の温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標に向けて動き出した。若者を中心とした世論の盛り上がりが、欧州議会選やEU人事を控えていた既成政党に重い腰を上げさせた。無謀にも見える高い目標設定には産業や技術、外交など幅広い分野で「強い欧州」を取り戻す野心が見え隠れするが、産業界には懸念も広がる。

「50年までに欧州を世界初の『気候中立』にしたい」。7月16日、EUの行政執行機関トップである欧州委員長への就任が決まったフォンデアライエン氏は宣言した。気候中立は温暖化ガスの排出を差し引きゼロにすることを指す。

フォンデアライエン氏は中道右派でも環境問題への意識が高いことで知られてきた。欧州議会で次期委員長の承認を得られるか危ぶまれたこともあり、支持に慎重だった中道左派の議員を取り込もうと「環境にやさしい欧州」を最優先課題として打ち出した。

7月からEU議長国になったフィンランドのリンネ首相も「(議長国任期の)年末までに合意を得たい」と力説するが、加盟国は一枚岩ではない。当初は6月の首脳会議で50年排出ゼロの目標採択を目指していたが、ポーランドチェコなど一部の国が反対して合意できなかった。

特にポーランドは電力需要の8割を、温暖化ガスの排出が多い石炭に依存する。50年ゼロをめざせば電力構成の大転換が必要になり、炭鉱や火力発電所で働く人々の雇用問題も生まれる。

ただ加盟国の大半は支持に回っており、いつまでも抵抗できないとの現実論もある。ポーランドのモラウィエツキ首相は「具体的なものが示される必要がある」と賛成の条件にEUからの十分な支援を挙げる。

欧州で50年ゼロの大きなうねりが起きたのは、5月下旬の欧州議会選だ。若者を中心に政治の怠慢を批判するデモが発生。スウェーデンの高校生、グレタ・トゥンベリさん(16)が「汚れた地球を我々の世代に残さないで」と始めた「学校ストライキ」にも同調する動きが広がった。各国で環境政党が躍進し、ドイツで第2党、フランスで第3党となった。

「大きな目標を掲げ、政策を総動員して新しい経済社会をつくる」。欧州委幹部は解説する。欧州委の試算によると、50年ゼロの実現には年間1750億~2900億ユーロ(約21兆~35兆円)に上る追加投資が必要だ。化石燃料などに向いていた投資を環境分野にシフトさせれば、新技術やビジネスで世界をリードできるとそろばんをはじく。

もう一つはエネルギーの自立だ。米国がシェール革命で20年にはエネルギーの純輸出国になる見通しとなる一方、EUは需要の約半分を輸入に頼る。足元ではロシアからドイツに天然ガスを送るパイプライン計画「ノルドストリーム2」を巡っても各国で賛否が割れる。EU関係者は「エネルギー供給を心配しなければ今より強い外交ができる」と漏らす。

ただ、目標達成へのハードルは極めて高い。電力は再生可能エネルギー原子力でまかない、運輸はすべて電気自動車か燃料電池車にする必要がある。石炭を大量に使う鉄鋼やセメントも別の手法を確立する必要がある。国際エネルギー機関(IEA)の分析では、EUの40年の二酸化炭素(CO2)排出量は17億トンと現在に比べて半減にとどまる。

欧州の経済団体「ビジネスヨーロッパ」は4月公表した報告書で、将来的な排出ゼロには賛同しながらも、50年と期限を区切ることに注文をつけた。欧州だけ目標が厳しすぎると、企業や投資が域外に流出しかねないとの懸念が背景にある。

国際的な枠組みであるパリ協定を支持する石油産業や自動車産業も50年排出ゼロの目標になると口をつぐむ。「50年と期限を区切ると、30年時点の削減目標を引き上げられるかもしれない」と恐れるためだ。

欧州景気に減速懸念が広がるなか、慎重な加盟国や産業界をどう説得するか。11月に発足するEU新執行部にとっても大きな課題になる。

ブリュッセル=竹内康雄氏)